astre −星−


03


「みんな、不の国が見えてきたぞ。」
先頭を歩いていた手塚が少々疲れているみんなに言った。
「やっと着いたにゃぁ〜。」
「思ってたより遠かったね。」
「不二、それはきっと魔物が多かったせいだ。」
不二の言葉に乾が言うと不二は真剣な顔をして頷いた。
「きっとそうだね。ということは国王様のお力が弱まっているということだ。」
「そうだな。」
「ねぇ、早く行こうよ。疲れた。」
不二と乾の会話に全員が深刻な顔をしているとリョウが疲れた顔をしてみんなに言った。
「そうだな。リョウも限界みたいだしな。」
「リョウがんばってたもんねー。」
「ほんとほんとあんなに魔法が使えるなんてびっくりだよ。」
菊丸や河村に褒められてもリョウが疲れていて照れているどころではなく、小さく「そんなことないよ。」と言っただけだった。
休ませないとやばいと感じた大石は皆を急かして急いで不の国へ向かった。











































―不の国
国へ一歩入ると町は活気ずいており、色んな店が道に出ていた。昨年視察で訪れた時には前の主だった為、町は荒れ放題、人買いは
いるし盗人や殺人者などが増え混乱していた。が、主が変わったとは聞いていたがこの変わり様はすばらしいの一言だった。
「すごいね。」
思わず不二が呟いた。それに同意するように手塚が言った。
「ああ。主が変わったからな。後で挨拶に行かないとな。」
「その前に宿屋を探そう。リョウを休ませないと。」
大石が手塚に言うと皆が河村に抱かれているリョウを見た。顔色は悪く、ぐったりしていた。
ここに来る前にリョウは限界を超え、倒れかけたところを河村に抱きとめられそのまま抱かれていた。
「少し無茶させちゃったね。」
「うん。おちびったら魔法連発するんだもん。そりゃ限界超えるよ。」
「開放されたばかりでまだ自分の力がコントロールできないのだろう。」
「だろうな。あ、手塚、宿屋があったぞ。」
大石が手塚に言った。















「すみません。」
「はい、いらっしゃいませ。何名様ですか?あれ、旅の人たちですか?」
「ええ。9人なんですが。」
「9名様ですね。旅人は大歓迎ですよ。ただこの国で騒動を起こさないでくださいね。」
「あ、主が変わったんですよね。」
「はい。今の主様は立派な方なんです。この国を救ってくださったんですから!」
「そうなんですか。」
「ええ。あ、お部屋ですね。2部屋ご用意したほうがよろしいですか?」
「できれば2部屋欲しいです。」
「かしこまりました。では、こちらにどうぞ。」
そして宿屋の人に着いて2階へと上がった。
「こちらとこちらのお部屋になります。お食事は下の受付の奥でとれますが、お部屋でとられたい場合はお申し付けください。あたしここ
の宿屋の娘のキョウと申します。何か御用がありましたら下にいますので声をかけてください。」
キョウはにっこりと笑い、部屋から出て行った。
そして河村がリョウをベッドへ寝かした。
「手塚、ここの主への挨拶はどうするんだ?」
乾が手塚に言うと皆が手塚のほうを向いて返事を待った。
「今のうちに行こうかと思ってる。本当はリョウも連れて行ったほうがいいのかもしれんが無理をさせるわけにはいかないからな。」
「そうだね、ここまでこれだけの傷でこれたのもリョウの魔法のお陰だもんね。」
不二が頷きながら言った。
「でも、誰もここに残れませんよ。」
「海堂の言うとおりだ。俺たちは皆役職がある。主に挨拶をしないわけにはいかないぞ。」
「じゃあさ、さっきのキョウちゃんに頼もうよ!おちびが起きたら俺達は主のところに行ってるからここにいてくれって伝言してもらったら
いいじゃん。」
大石が悩んでいると菊丸がグッドアイデアとばかりに言った。
「仕方ない、そうするか。」
「じゃあ、もう行く?」
手塚が頷いたのを確認してから不二が言った。
「そうだな、早く行って早く帰ってきたほうがいいからな。」
乾の言葉に皆頷いて、早々に出発した。






















「あら、皆さんお出かけですか?」
下へ降りるとキョウが受付で仕事をしていた。
「ここの主に挨拶をしてこようと思いまして。それでキョウさんにお願いがあるのです。」
「何でしょうか?」
「部屋に1人寝ているんです。起きたら主のとこに挨拶に行ってるからここにいてほしいと伝言してもらえますか?」
「はい、わかりました。お気をつけて。」
不二がキョウに頼むとキョウはにっこり笑った。











































「・・・・・・あれ?」
手塚たちが出かけて30分ぐらい経ってリョウが目を覚ますと周りに誰もいなかった。
「皆どこいったんだろう・・・。」
ベッドから降りようと床に足を着いた途端リョウの身体がグラと傾いた。
「わっ!」
まだ体力が回復しておらず、リョウの身体はフラフラだった。
「そっか、俺倒れたんだっけ・・・。限界を超えちゃったのか。俺もまだまだだね。」
自分の失態にため息をついてフラつく身体を叱咤し、1階へと降りていった。
























「すいません。」
1階へ降りて受付で仕事をしていたキョウにリョウは声をかけた。
「はい。あ、大丈夫ですか?」
「はい。で、あの・・・」
「皆さんなら主様に挨拶にいかれましたよ。主に挨拶してくるからここにいて欲しいと伝言を頼まれてます。」
「ありがとうございます。」
キョウに言われてリョウは少し安心した。


置いていかれたのかと思った


自分は行く宛などないから放り出されると途方に暮れることになる



「あ、おなかすいてませんか?」
「え、あ、少しすいてるかも・・・。」
「では、お食事の用意しますね。あたし話相手になりますよ。」
「え?!でも、仕事があるんじゃ・・・。」
「いつでもできる仕事ですから。」
笑顔のキョウに押されリョウは食堂のほうへと向かった。























「はい、どうぞ。まだ昼なんで軽めにしときました。」
「ありがとうございます。」
キョウが作ってくれたのはホットケーキだった。食堂にはここの宿に泊まっている客がぱらぱらといた。
「うまい!料理上手ですね、・・・えっと・・・」
「あ、あたしキョウって言います。あなたは?」
「俺はリョウっす。キョウさんって何歳なんすか?」
「21歳よ。リョウさんは何歳?」
「多分12っす。リョウでいいっすよ、敬語もいいっす。」
「わかったわ。多分なの?」
「俺、前の記憶がないんすよ。というか、俺自身が何者なのかもわかんないんす。」
「そう、ごめんなさい。変なこと聞いてしまって・・・。」
「気にしないでください。あ、ここの主って最近変わったんすよね。どんな人なんすか?」
「主様はすばらしいお方よ。この国が大変な時に勇敢に前の主様に立ち向かっていったの。それまで誰もできなかったことなのよ。主
様のお力は絶対で国中から強い人たちを集めて守らせていたから。でもね、今の主様はあたしたちのような民間人なのよ。」
「今までそんな人はいなかったんすか?」
「ええ。主様のご子息とか親戚の方とかが代々主を引き継いでいらっしゃったの。」
「へぇ、じゃあ今の主は強いんだ。」
「もちろんよ!それに今の主様はあたしたちのことを第1に考えてくださってるの。この不の国を住みやすくするために。」
「いい人なんすね。」
「ええ、とっても。でも、そんな主様を気に入らないって人もいるの。前の主様の兵士だった人とか、主様が退位なさって職を失った人も
いるらしいわ。今の主様を失脚させようと集まってるって噂もあるの。」
「そのこと主は知ってるんすか?」
「ええ。色々考えてらっしゃるみたい。」
「じゃあ・・・・・。」
リョウがしゃべろうとした時突然ガシャーンッとすごい音が聞こえた。
「何?!」
「何なの?!」
同時に立ちあがり音のほうへ行こうとするとその前に食堂に男達が入ってきた。
「静かにしろ!ここは俺たちが占拠した!お前たちは人質だ!」
男たちの手には銃があり、それを食堂にいた客たちに向け脅し始めた。
「静かにしろよ。変な動きしてみろ、頭に風穴があくぜ。」
リーダー格っぽい男がゆっくりしゃべると客たちは大人しく1箇所に集められた。
その中にはリョウとキョウの姿もあった。


























心って自分ではわかりにくいけど






他人にはわかりやすいもの







自分にとって大切な人がいるか